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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)446号 決定

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状、執行抗告の理由書(各写し)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

記録によれば、抗告人は、平成二年二月二〇日、株式会社丙川企画から同社所有の本件不動産(原決定の別紙物件目録記載の不動産)につき抵当権の設定を受け、同月二一日その設定登記を経由していたところ、抗告人の右抵当権に基づく申立てにより、神戸地方裁判所は平成四年一一月一九日本件不動産の競売開始決定をし、同月二四日、右開始決定に基づく差押登記がされたが、抗告人は平成五年六月一四日、原裁判所に対して、丁原松夫を賃貸人(又は転貸人)とし、同人が本件不動産を戊田竹夫に賃貸(又は転貸)しているとして、物上代位の規定に基づき、丁原松夫の戊田竹夫に対する賃料債権の差押えを申し立てたこと、原裁判所は、同年七月二〇日、そもそも、抵当権の物上代位は、転貸に係る賃料債権等には及ばないとして、右差押の申立てを却下したことが明らかである。

しかし、民法三七二条により、先取特権の物上代位に関する民法三〇四条の規定を抵当権に準用するについては、少なくとも競売開始決定の効力発生時点以降においては、抵当権の物上代位が抵当不動産の賃料債権にまで及ぶものと解すべきであり、また、同条中「債務者」とあるのは、抵当権の物上代位の場合には「抵当権の目的たる不動産上の権利者」と読み替えるべきであり(大判明治四〇年三月一二日民録一三輯二六五頁)、これには所有者及び抵当不動産の第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定後に借り受けた賃借人も含まれると解すべきであり(東京高裁決定昭和六三年四月二二日高民集四一巻一号三九頁)、既に大阪高裁の先例も同旨の判示をしている(同高裁第五民事部平成四年(ラ)第四一四号同年九月二九日決定(公刊物未登載)、同第七民事部平成五年(ラ)第一八二号同年四月二一日決定(前同)、なお最判平成元年一〇月二七日民集四三巻九号一〇七〇頁参照)。

そうすると、丁原松夫は本件不動産上の権利者かどうか、本件不動産に対する抵当権設定時期ともとの賃貸借等権利の設定時期との先後関係等を検討すべきであるのに、これをしないまま、前記の理由で本件差押命令の申立てを却下した原決定は、その審理を尽くさないものとして取消しを免れない。

三  結論

よつて、原決定を取り消した上、更に審理をさせるため、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 東畑良雄)

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